4.5.11 SUS304鋼へのAlブロンズの肉盛溶接
図1に示しますようにSUS304鋼にAlブロンズを肉盛りしました。金属組織がどのようになっているかに興味があり肉盛りされた部分の中央部を切断して金属組織を観察してみました。図2は切断面の金属組織を示しています。図中の中央より少し左側に黒色の部分があり大きな割れが観測されました。ミクロ組織は黒破線で囲んだ(a)および(b)で行いました。その結果が図3です。「4.1 ステンレス鋼の概要」の「4.1.3 SUS鋼の鋭敏化」でも説明していますようにSUS304鋼は短時間で鋭敏化を起こします。今回の事故はSUS鋼の鋭敏化以外にも原因があるのです。それはオーステナイト型SUS鋼は「4.1.5 SUS鋼の熱的性質について」でも述べていますが、膨張係数がフェライト型SUS鋼に比較して約1.7も大きいのです。すなわち今回の事故は、Alブロンズの肉盛り溶接の熱により基質のSUS304鋼が鋭敏化するのと同時に膨張します。肉盛り作業が終わると全体が徐々に冷却されていくわけですが、ここで鋭敏化を起こしたSUS304鋼の結晶粒界で割れが発生しSUS304基質の大きな収縮と相まって、融点の低いAlブロンズの融液が割れの中に侵入したと考えられます。異種金属の接合ではそれぞれの融点および線膨張係数やその他の因子を十分考慮して行う必要があります。
図1 30mmのSUS304鋼板上に約5mmの正方形状にAl ブロンズを肉盛溶接した試験片の外観写真と金属組織観察位置
図2 図1の黒破線で切断した金属組織
多くの割れが確認できます。
図3 図2中の(a)および(b)中の拡大写真
SUS304鋼の割れた結晶粒界にAlブロンズが侵入しています。